20080108

細田守作品におけるディティールの偏向性 その2

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TVアニメシリーズ「デジモンアドベンチャー」は細田守が監督した作品ではなく(監督は角銅博之氏)、氏はTVシリーズ中のたった1話「21話 コロモン東京大激突!」しか演出していません。
本来ならば、TVシリーズ全体の雰囲気と、「コロモン東京大激突!」の異質性なども踏まえて文章を綴らなければなりませんが、今の私にはそれを書きまとめるだけの筆力はありませんので、この記事では21話のみについて言及する、といった形にさせていただきます。まぁ、おかしなところがあればやんわりと指摘してくださいね、ということで……。

――さて、まずは「コロモン東京大激突!」について軽くあらすじを述べさせていただきます。この話は主人公が現実世界から離れた異世界である“デジタルワールド”から、一時的に主人公の故郷である世界――お台場の自宅マンションに戻ってくる、といった内容になっており、サークル「どうかんやまきかく」が発行されている「細田守演出デジモンアドベンチャー 逆ロケハン カラー版」でとても詳細に紹介されている通り、現実世界の実感を出すため、いくつものカットのレイアウト(つまり背景描写)が実景から引用されています。
しかしこの記事で取り上げたいのはお台場という“外”ではなく、マンションの“中”――主人公“太一”が帰ってきた場所であり、「帰る場所」である自宅において、くつろぐ太一の描写のディティールです。
「帰る場所」である自宅――それは一体、どういった場所なのでしょうか。学校や仕事から帰り、落ち着ける場所。衣食住が揃っている空間。そこで生活ができ、そして自分が生活するために、さまざまなものへすぐに手をのばすことができる場所などなど、色々と事例を挙げていくことができます。


それを踏まえ、劇中での太一の行動を見てみましょう。上に引用したスクリーンショットの通り、太一とコロモンは自宅でできるあらゆる行動をとろうとします。冷蔵庫には食物が蓄えられていて、好きなときにとって食べることができますし、ふわふわした布団が敷かれたベッドややわらかいソファでまどろんだりすることができます。排泄をするためのトイレという場所が“わざわざ”据え置かれており、(普段なら)落ち着いて利用することができますし、彼らだけでなくヒカリがパジャマであることについても、パジャマ着でいられる空間としての「自分の家」を印象づけていると言えるかもしれません。帰るための場所。暮らすための場所――そういった側面としての自宅が、繰り返し、丁寧に「コロモン東京大激突」では描かれているのです。
「コロモン東京大激突!」において重要なポイントは二つ。それは、主人公が本質的にデジタルワールドの住人ではなく、現実世界での子供であるということと、そして主人公が再びデジタルワールドに戻らなくてはならない、重い運命を引き受けるということです。主人公たちが現実世界で暮らす人間の一人であることを強く印象づけるためには、そこでの生活描写が必要になってきますし、その生活から引き離されることによって、今までとは違う世界が自分の目の前に待っている、ということを表現することができます。後者についてはWEBどうかんやまきかくにある「吉田脚本の主人公性」の引用文のようになってしまっているので、詳細はそちらの論説文に譲るとして、前者について、現実世界の生活を「自宅」に象徴させ、そこでのディティールの積み重ねによりシナリオを効果的に「演出」していた、と言えるでしょう。


映像作品におけるシナリオの緩急やカット毎の時間のペース配分は、その作品を規定づける「リズム」を生み出す重要なポイントになります。それと同じように、何を描いて何を描かないか、何を重視して描写し、どういう“ふるまい”をクローズアップさせるかということで、作品はその作品にしかない、独自の世界を作っていくのだと思います。細田守は、恐らくキャラクターのオリジナリティというものよりも、キャラクターが存在する場やイベントなどを重要視しており、それによってそれまで紡がれてきたキャラクター像が反転し、別の側面を見せてしまう――そんな描写に長けた作家ではないかと、私は感じます。



おまけ。「おジャ魔女どれみドッカ〜ン! 40話 どれみと魔女をやめた魔女」よりガラス細工をする主人公とゲストキャラクターの描写。熱を加えることによって、さまざまな形に変形する特性や、「固まっていてもゆっくり動いている」ガラスに、主人公の行く先や永遠のときを生きるゲストキャラクターを象徴させています。

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